ねらい
皆さんはこれまで政治学の「消費者」であったことだろう.この講義では,政治学の「生産者」となるためには,いかなる考え方や技能を取得しなければならないかを考えていく.政治学の論文を書くとはいかなる営為なのか,論文を書くために求められる作業にはいかなるものがあるのか,そもそもよい論文とはどういったものなのかといった問いが,この授業の検討対象である.
具体的には,まず,よい研究を構成するいくつかの要素について理解をしてもらった上で,実際に多くの先行研究を読んでいきながら,それらの研究がよい研究としての要素を満たしているのか,足りないとすればどこをどのように改善すればよいのか,といった諸点について検討していく.
進め方
初回は,担当者の説明により先行研究を読む上でのポイントを解説していく.
二回目以降は,久米郁男『原因を推論する』(有斐閣,2013年)を1章ずつ読んでいくとともに,そこでのテーマと関係がある論文を一本,講読していく.論文は,若手を中心として,学会誌やそれに準ずるものに掲載されたものを中心としている.
最後の回においては,久米本ではほとんど取り上げられていない点を補足するため,伊藤修一郎『政策リサーチ入門』(東京大学出版会,2012年) の一部の章を講読する.
受講者は課題文献の内容を理解した上で,久米本の該当章とその論文の関係について自らの見解,そしてそれらについての疑問点や批判を事前にまとめておくことが求められる.
なお,論文においては,日本政治を素材とするものが多いが,あくまで方法論の講義なので,日本政治そのものについての議論は原則として行わない.受講者にも日本政治についての知識などは求めていない.
各回の講義では,報告者を定めず,ディスカッションを進めていく.課題文献のコピーは用意しないので,各自が用意すること(ダウンロードできるものについてはURLを記載しておいた).
講義計画と課題文献
4月8日:先行研究の読解
担当者作成の資料
4月15日:規範と事実
久米:序章,終章
田村哲樹.2006.「規範理論と経験的研究との対話可能性」『年報政治学』2006-II
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nenpouseijigaku1953/57/2/57_2_11/_pdf
4月22日:従属変数と独立変数
久米:1章
坂本治也.2005.「地方政府を機能させるもの?:ソーシャル・キャピタルからシビック・パワーへ」『公共政策研究』5号:141-153.
5月13日:反証可能性
久米:2章
木村幹. 2004. 「強大な国家と不安定な支配:東アジアにおける脱植民地化とその影響」『日本比較政治学会年報』6号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiji1999/6/0/6_0_131/_pdf
5月20日:理論と観察
久米:3章
河野勝, パトリック・フォルニエ. 2000. 「日本の中選挙区・単記非移譲式投票制度と戦略的投票:「M+1の法則」を超えて」 『選挙研究』 15: 42-55.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaes1986/15/0/15_0_42/_pdf
5月27日:記述
久米:4章
三浦まり. 2007. 「小泉政権と労働政治の変容:「多数派支配型」の政策過程の出現」『年報行政研究』 2007: 100-22.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspa1962/2007/42/2007_100/_pdf
6月3日:共変関係
久米:5章
西澤由隆.2012.「都道府県議会議員の選挙戦略と得票率」『レヴァイアサン』51: 33-63.
6月10日:時間的先行
久米:6章
山崎新. 2012. 「政治知識と政治関心の関係」『早稲田政治公法研究』100: 25-34.
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/39570/1/SeijiKohoKenkyu_100_Yamazaki.pdf
6月17日:他の変数の統制
久米:7章
砂原庸介. 2010.「地方における政党政治と二元代表制:地方政治レベルの自民党「分裂」の分析から」『レヴァイアサン』47: 89-107.
6月24日:分析単位,選択バイアス,観察のユニバース
久米:8章
稗田健志. 2013.「政党競争空間の変容と福祉再編:先進工業18カ国における子育て支援施策の比較分析」日本比較政治学会(編)『事例比較からみる福祉政治』〔日本比較政治学会年報第15号〕.
7月1日:複数事例比較
久米:9章
伊藤修一郎(2004)「町村役場の組織 : ニセコ町、東村、上野村の比較事例研究」『群馬大学社会情報学部研究論集』11: 161-179.
7月8日:単一事例
久米:10章
上谷直克(2012)「大統領への「挑戦」と「失墜」に関する数理モデル分析 : ラテンアメリカ諸国の事例をもとに」『アジア経済』53: 2-34.
http://d-arch.ide.go.jp/idedp/ZAJ/ZAJ201206_002.pdf
7月15日:問いの立て方と仮説の作り方
伊藤『政策リサーチ入門』1章と2章
7月22日:予備日