京都大学・学部・行政学18

経済学部試験問題

問題 次の問1および問2に解答しなさい.解答の順序は問わないが,冒頭に問番号を明記しなさい.配点は問1が60点,問2が40点である.

問1 情報の非対称性の観点から,官僚による「忖度」,ならびにリスポンシビリティという概念について解説を加えなさい.

問2 PFIとはいかなるものであるのか,その定義と具体例を述べた上で,その功罪についての見解を述べなさい.

採点結果

85-80点: 1名,69-60点: 1名,59点-: 3名

法学部・教育学部試験問題

問1と問2の両方に答えなさい.いずれについても,解答の構成や文章の論理性についても評価対象とするとともに,解答に誤りや不要な要素が含まれている場合には減点を行うので注意されたい.配点は問1が40点,問2が60点である.

問1 第2次以降現在にいたる安倍政権について,行政学の観点からその特徴を論述しなさい.

問2 次の夕張市における財政破綻の事例を読み,行政学の観点から論点を抽出し,解説を加えなさい.

 1971年から助役を務めていた中田鉄治は石炭産業後の都市運営を見据え,「炭鉱から観光へ」を訴える.1979年には市長に当選し,2003年の退任に至るまで,石炭の歴史村事業などの観光政策を展開していく.その裏で,1990年に最後の炭鉱が閉山するまで,炭鉱業者が撤退するたびに施設の引き継ぎの負担が増えていく.北海道炭礦汽船(北炭)の閉山後,そこが経営してきた病院が市民病院となったことなどは典型例である.中田は国の政策転換が原因であることを理由に,国の補助金や地方債を引き出し続け,第3セクター,公営企業などの借り入れを続ける.80年代のリゾート開発の流れの中で多くの民間業者も進出してくる.自治省は90年には,夕張を「活力あるまちづくり優良地方公共団体」として表彰した.

 しかし,バブル崩壊後,リゾート開発は行き詰まる.産炭地域振興臨時措置法は2001年に失効し,三位一体の改革で交付税は20億円の減収となった.そうした中でも撤退するリゾート施設を市が買い取ることなど歳出は膨らんでいく.出納整理期間とされる二ヶ月間を利用して複数年度間の会計を操作する「ジャンプ方式」と称される手法を92年頃から使い始めることで,見かけ上は赤字が発生していないが,実際には累積債務が積み上がっていく.

 財政悪化に対しては,自主再建か財政再建団体となるかが選択肢となる.自主再建である限り,国からの支援を受けられないが,起債の制限はあるものの予算の編成権は維持できる.再建団体となると,歳入や歳出の自治が奪われる代わりに,財政再建債を発行し,赤字の穴埋めをすることや,その利子補給などの支援策が与えられる.民間企業の倒産や個人の自己破産とは異なり,自治体は存続するし,債務整理がなされるわけでもない.国の支援を受けつつ,住民が借金を返すのである.どちらの道を選ぶかは自治体が選択できる.

 夕張が自主再建を断念した契機は,2006年6月,北海道新聞に借入金300億円,負債総額500億円と報道され,「夕張問題」として位置づけられる中,金融機関が融資を止めたために,同年8月には資金がショートする状態に陥ったことにある.さらに道庁による調査の中で,出納整理期間以外にも「ジャンプ方式」を実施するという違法会計が見つかったこともある.しかしそうした中でも,中田の後を継いだ後藤市長は,累積債務の責任がどこにあるのかを明確にせず,財政再建団体となるのは国や道に迫られてのことであるという姿勢を見せ,市議会でもまともな質疑が行われなかった.市の三セクや公社,市営病院についても存続を求めていた.

 同年9月の市議会議決を受け,総務省の主導により再建計画が策定されていく.総務省は他の自治体が右にならえとなることを恐れた.夕張同様の状態にある市町村は北海道に多く存在していたのである.総務省は住民負担の拡大による歳入確保と,歳出の切り詰めを厳しく求める.市長が提示した職員数を10年間で半減する案や,再建計画を30年程度とする案は,いずれもが甘すぎるとして,却下され,給与も全国最低水準に落とされた.

 計画策定を進めつつ,負担を求める住民側への説明会が開かれていく.責任追及を求める声,負担の過重さを嘆く声などが飛び交う.マスコミでの報道も続き,被害者としての住民像が形作られていく.これが格差問題などと結びつけられることを嫌った菅総務大臣は同年12月,現地訪問を行い,「基本的な行政サービス」の提供は確保すると発言のトーンを変える.年明け後,計画の修正が進み,敬老パスの継続,保育料の引き上げ延期などの他,特別交付税措置や道庁の低利融資など支援の拡充が盛り込まれた.2007年3月に再建計画が決定.総額353億円の赤字を18年かけて解消する計画となった.病院は市の財政から切り離され,診療所として大幅に縮小しつつ存続し,三セクや公社が保有していた施設の多くも観光会社が運営を受託することとなった.

 行政機構は大幅に縮減された.2006年当時,総務部,財政部,産業経済部,観光推進本部,建設水道部,市民福祉部,福祉事務所の7部・事務所21課・室だったものが,2009年7月の時点では総務課,地域再生推進室,建設課,市民課,福祉課の5課・室体制に削減された.職員数は2006年には市営病院の99人も加え403人いたところ,2009年には147人となった.退職金を年々減らすこととしたこともあって,再建計画がスタートする2007年4月の時点で職員数は165人となった.部長職次長職の全員をはじめ150名以上が06年度末で退職したのである.

 こうした流れをにらみつつ,国の方では,地方政府の財政健全化の仕組みが整えられていく.小泉政権で種々の改革を担った竹中平蔵が,総務大臣であった2005年,デフォルト(債務不履行)の際の制度整備を検討する.2008年に成立した地方財政健全化法案の出発点はここにある.これにより,三セクや公社も含めた連結実質赤字を見るようになり,また,将来負担比率も見ることでストックの債務も確認が行われるようになった.そして,一点段階で財政健全化計画の策定が義務付けられ,さらに悪化した場合には財政再生計画の策定が義務付けられる.再生計画の場合は,総務省の同意が必要であり,実質的に国の統制下におかれる.これを受けて夕張市についても改めて財政再生計画が制定された.新たに322億円を17年間かけて解消するという予定となった.

法学部・教育学部追試試験問題

問1と問2の両方に答えなさい.いずれについても,解答の構成や文章の論理性についても評価対象とするとともに,解答に誤りや不要な要素が含まれている場合には減点を行うので注意されたい.配点は問1が40点,問2が60点である.

問1 政治と行政の関係について,まず,政治行政分断論などの学説史をとりあげつつ,それと実態の関係について述べなさい.その上で,2000年代以降の日本の中央政府における政治と行政の関係は,それらの学説を用いて,どのように位置付けられるかを述べなさい.

問2 日本の中央・地方関係,大都市制度,ならびに地方政府の政治制度の特徴を述べた上で,2010年代以降の大阪(大阪府および大阪市)において,それらの特徴がどのような形で現れているかを述べなさい.

採点結果(本試験と追試験をあわせたもの)

85-80点:22名,79-75点:38名,74−70点:36名,69−60点:24名,59点以下:23名,履修者中の単位取得率62.2%


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