- 講義の位置づけ
この講義では,政治学の学術研究を進めていく上で必要な研究方法について,基本的な理解を得ることを目標とする.個別の計量分析の手法や統計ソフトの用い方の修得については,他の講義や自習によることとして,この講義では,計量分析,実験,事例研究,フォーマルモデルといった研究方法の基本的な特徴や強みと弱みを理解することを目標とする.〔追記:実際には,実験と事例研究は時間の関係で扱えなかった.〕
なお,現代政治分野に関しては,本講義の他,内容に関する体系的な文献講読(コースワーク)と,研究アイディアの意見交換や研究成果の公表・検討を行うワークショップとの三本立てで,大学院の教育は構成される.
- 毎回のテーマと課題
- 4 月 13 日:ガイダンス
- 課題文献:曽我「先行研究を読むとはいかなる営みなのか」
- 検討点:アウトプットとして何が求められているのか.そこから逆算してどのようにインプットを組み立てるとよいのか.あなたの考えをまとめなさい.
- 4 月 20 日:政治学における因果推論の確認と諸方法の概観
- 課題文献:久米郁男『原因を推論する』(有斐閣)+加藤ほか『政治学の方法』(有斐閣アルマ)
- 検討課題 1:久米を読んで,政治学における因果推論において,特にどのような注意すべき点があるのか,そのことは政治学のいかなる特徴と関係しているのかを考えなさい.
- 検討課題 2:加藤ほかを読んで,政治学の主要な方法の特徴,強み,限界についてまとめた上で, 政治学において方法論とはどのような意味をもつのか,他の学問分野と比べたときにどのような違いがあるのか(ないのか),あなたの見解を示しなさい.
- 5月11日:理論の構築1
- 課題文献:曽我「政治的産物としての官僚制」未公表草稿.
- 検討課題:文献を読んで,不明点,疑問点をまとめた上で,リサーチクエスチョンを考えるに際して,当該モデルがどの程度有効であるか,検討しなさい.
- 5月25日:理論の構築2
- 課題文献:Iversen, Torben, and David Soskice. 2006. “Electoral Institutions and the Politics of Coalitions: Why Some Democracies Redistribute More Than Others.” American Political Science Review 100: 165-81.
- 検討課題:文献のうちモデルの部分(171 頁まで)を読んで,不明点,疑問点をまとめた上で,リサーチクエスチョンを考えるにあたって,当該モデルがどの程度有効であるか,検討しなさい.
- 6月15日:理論の構築3
- 課題:何らかの政治的状況を設定し,それを説明する理論モデルを構築しなさい.モデルのセッティング,命題,含意の三点について,ハンドアウトを作成し,当日は 10 分で口頭報告を行うこと.
- 追記:自分でモデルを立てるのが難しいと感じる場合は,先行研究におけるモデルの紹介を行うことに代えてもよいこととした.
- 6 月 29 日:計量分析の検討:回帰分析の考え方
- 課題文献:Achen, Christopher H. 2005. “Let’s Put Garbage-Can Regressions and Garbage-Can Probits Where They Belong.” Conflict Management and Peace Science 22 (4): 327-39.
- 検討課題:論文で指摘されている注意点を整理した上で,なぜそのような注意が必要なのか(落とし穴がどこにあるのか)検討しなさい.現在の政治学において,どの程度そこでの注意点が守られているのか,具体例とともに検討しなさい.
- 7 月 6 日:計量分析の実践 2:回帰分析のリプリケーション
- 課題:Iversen and Soskice. 2006
- 検討課題:後半部分を読んで,モデルの検証にあたって,どのような変数の指標化をおこなって いるのか,その妥当性を検討しなさい.分析の方法を確認し,疑問点を整理しておきなさい.
- 7 月 20 日:計量分析の実践 3:リプリケーション
- 課題:Iversen and Soskice. 2006 のリプリケーションデータ(http://www.people.fas.harvard.edu/~iversen/data/ElectoralInstitutions.htm)を用いて,同論文の計量分析を再現しなさい.
- 検討課題:データに対して適切な分析が行われているのか,自身の分析を通じて確認しなさい.また,分析の頑健性はどの程度だと判断するか,様々な方法を試して確認しなさい.
- 後期については,参加者各自が指定した論文を取り上げ,リプリケーションを行って,検討を加える.
- 追記:取り上げた論文は次の通り.下記の日程において,毎回およそ一本を取り上げた.10月12日,10月26日,11月2日,11月16日,12月7日,12月21日,1月18日
- Konisky, David M., and Manuel P. Teodoro. 2016. “When Governments Regulate Governments.” American Journal of Political Science 60 (3): 559-574.
- Blom-Hansen, Jens, Kurt Houlberg, and Søren Serritzlew. 2014. “Size, Democracy, and the Economic Costs of Running the Political System.” American Journal of Political Science 58 (4): 790–803.
- Berry, Christopher R., and Anthony Fowler. 2016. “Cardinals or Clerics? Congressional Committees and the Distribution of Pork.”American Journal of Political Science 60 (3): 692-708.
- Jenkins, Jeffery A., and Nathan W. Monroe. “On Measuring Legislative Agenda-Setting Power.” American Journal of Political Science 60(1): 158-174.
- Kellam, Marisa. 2015. “Why Preelectoral Coalitions in Presidential Systems?”
British Journal of Political Science, Published online: 24 August 2015 - Gibler, D. M., & Randazzo, K. A. (2011). Testing the effects of independent judiciaries on the likelihood of democratic backsliding. American Journal of Political Science, 55(3), 696-709.
- Gartzke, Erik. 2007. The Capitalist Peace. American Journal of Political Science 51(1):166-191.
- 4 月 13 日:ガイダンス